銃の印象を左右する木部はグレードによって材質から異なる

 ストックは先台と銃床のふたつで構成されるが、それぞれ多少大きめ大きめに木取りされたブランク材から削り出されている。 日本市場に向けたミロク銃の材料には、アメリカクルミとトルコクルミが主に使用されるが、高級銃にはフランスクルミが採用される。 つまり全てのウォールナットが使われているのだ。
 木部は狂いが来ないように乾燥済みの状態で加工を行うのだが、こだわりのミロクは木材の乾燥も自社で行っている。 それはへたな乾燥をするとヒビ割れなどで不良率が高くなったり、出荷後に狂いが発生してしまうからだ。
 まずはブランク材の上下面をブレーナーで削り、次段階で外形をルーターで平面に仕上る。外形の立体形状は、 ならい切削盤で一度に多数加工され、内部はコンピューター制御のCNCによって切り抜かれる。 その際、金属部に入るところはきつめに入るよう加工が施されているという。荒磨きの後にそれぞれは整理保管される。
 銃身とレシーバーはすでに仕様書に基づいてペアが決まっているが、セット合わせの工程で木部のパーツもセットに加わる。 グレードに見合った木質の銃床が選ばれ、先台は元台の木目や色調を考えてペアが決定される。ここでセットされた部品は、 以後完成まで組み合わせが変わることはない。
 形が整えられ組み合わせが決定した木部は、いよいよ銃身やレシーバーと合体するが、そこにも匠の技が盛り込まれていた。 隙間もガタもなく、所定の重さで機関部が入るよう木部側は人の手によって削られながら合わされている。 ここでもベテランの仕事は見事だ。一度合わせてみてチョイチョイと加工するだけで、木部は金属部分にピッタリとはまってしまうのである。
 この後、再び銃身部とレシーバー部、木部はそれぞれの仕上げ工程に行くため、仕様書と共に別々に流されていく。

再びバラされた各パーツは最終仕上げ工程で生まれ変わる

銃身部(バレル)の仕上げ
銃身部はサンダーやメリーと呼ばれるバフで磨かれ、仕上げ工程を経ていく。 ところが高級銃は違った。磨き面がほんの僅かでも揺らぐことを嫌い、サンダー研磨は避けられているのだ。 銃身形状に成形された砥石を使い、職人さんが丁寧に磨き、その後にバフをかけるという工程を踏んでいる。
 磨きを終えると着色工程であるが、これは仕上がりが黒くなるため黒染めと呼ばれる作業だ。 まずは酸洗い、洗浄、着色液の順に浸けられ、再び洗浄し、最後はオイルに浸けられる。 このように古来からの着色方法で深い黒に染められるが、これは金属の表面を四酸々化鉄でコーティングしているのである。 実は四酸々化鉄というのは錆だが、赤錆と違って安定した錆である。無数のピンホールを持ち、 油分をそこに貯めることで錆の防止効果があり、さらに美観も良いため銃にはうってつけの仕上げとなる。 この着色工程では、銃身内まで全て真っ黒に染まるため、銃身の内部やジャケットブロック周辺を再び磨き直して銃身の仕上げ工程を終了する。 この磨き直しの作業は省略することもできるが、ミロクでは全銃このような丁寧な工程を踏んでいる。 実際アメリカ製のものは、よほど高級な銃でなければ磨き直しはされず、中も外も真っ黒のまま出荷されていることから見ても、言わずもがなである。